デザイナーのためのマーケティング入門|数字で語る3指標と検証法

2026/08/24
📌 この記事のポイント
マーケティングができるデザイナーとは数字を語れる人
評価軸はビジネス視点とユーザー視点の2つだけ
最低限見るのは表示回数・クリック数・クリック率
仮説が外れても、検証できていれば成果になる
数字を聞く行為そのものが次の依頼につながる
2026年8月日更新
マーケティングができるデザイナーとは「作ったものの数字を語れる人」

デザイナーにとってのマーケティングの入り口は、自分が作ったものの成果を数字で確認し、次の1枚を提案できる状態です。市場調査でも広告運用でもありません。バナーを1枚納品したあとに「表示回数はいくつでしたか」と聞けるかどうかが最初の分岐点になります。
マーケティングという言葉の範囲が広すぎることが、デザイナーの学習を止めています。範囲を絞る方法は単純で、自分の制作物に紐づく数字だけを見ることです。バナーならクリック率、サムネイルなら視聴率、LINE配信なら開封率。制作物ごとに返ってくる数字は決まっています。
参考:本記事はNOT DESIGN SCHOOL主催ウェビナー「『なんとなく良い』を『数字で良い』に変える。デザイナーのためのマーケティング入門」(2026年開催)の内容をもとに構成しています。
バナーを評価する2つの視点|ビジネスとユーザー

バナーの評価軸とは、目的を達成できたかというビジネス視点と、その場で見て気持ちよく目に留まるかというユーザー視点の2つです。ウェビナーの冒頭では参加者に「いいバナーとは何か」を問いかけていましたが、チャットに集まった回答は「CVが取れる」「クリックしたくなる」といったビジネス寄りのものと、「目に留まる」「印象に残る」「邪魔にならない」といったユーザー寄りのものにきれいに分かれました。

視点 | 見るもの | 判断の材料 |
|---|---|---|
ビジネス視点 | 目的を達成できたか | 表示回数、クリック率、CPM、CVなどの数値 |
ビジネス視点 | 仮説検証ができたか | 配信前の仮説と結果のズレ |
ユーザー視点 | どの場で出会うか | 掲載面と、そこにいる人の気分 |
ユーザー視点 | 見た人の気持ち | 一目で伝わるか、後で思い出せるか |
片方が欠けたバナーは自分勝手なデザインになります。ユーザー視点だけが欠けると、情報量が多く読みにくい、何を伝えたいのか分からない広告になります。ビジネス視点だけが欠けると、丁寧に作られていても目的につながらない広告になります。
マーケターが企画時に考えているのも、この2つの往復です。上司や経営者からは「そのバナーはクリック率を達成できるのか」と問われ、デザイナーに依頼するときには「こういう場でこういうユーザーに、こういう目的で配信したい」と伝える。依頼書に書かれていない部分にこの往復が隠れているので、聞けば出てきます。
まず押さえる3指標|表示回数・クリック数・クリック率

デザイナーが最初に見るべき指標とは、インプレッション(表示回数)、クリック数、クリック率(CTR)の3つです。作ったバナーが配信されたと聞いたら、この3つを聞くところから始まります。
インプレッション:何回表示されたか。どんなに良いバナーでも、表示されなければ存在しないのと同じです
クリック数:何回クリックされたか。バナーの役割はLPへ遷移させることなので、遷移した実数を見ます
クリック率(CTR):クリック数 ÷ 表示回数。見た人のうち何%が動いたかを示します
計算はクリック数を表示回数で割るだけです。ウェビナーで示された例では、1万回表示されて100回クリックされた場合のCTRは1%になります。同じ商材でバナーを3案作り、そのうち1案のCTRが高かったなら、その方向に寄せた次の案を提案できます。
Facebook広告のCTRについては、登壇者の実感値として1.2%から1.4%程度、条件がそろったときで5%前後という水準が語られていました。ただしこの数字は商材とターゲティングの幅で大きく変わるため、他社の数値を自分の合格ラインにするのは危険です。
仮説→制作→配信→検証のサイクルが継続案件を生む

デザイン制作の継続受注につながるのは、仮説を立てて作り、配信し、結果を検証して次を改善するサイクルを回せるデザイナーです。1枚納品して終わる関係では、次の提案の材料が手元に残りません。
段階 | やること | デザイナーが用意するもの |
|---|---|---|
仮説 | 誰がどの場で見るかを言葉にする | 訴求軸とデザイン方針の説明 |
制作 | 仮説の差が出る形で複数案作る | 比較できる2〜3パターン |
配信 | 配信期間とターゲットを確認する | 配信条件のメモ |
検証 | 3指標を受け取って読む | 次案の提案書 |
重要なのは、成果が出なくても仮説検証ができていればビジネス上は前進しているという点です。「この訴求ではユーザーの行動につながらなかった。だから訴求を変える」という会話が成立すれば、その配信には価値があります。逆に仮説なしで配信した広告は、結果が良くても何が効いたのか分からず、次に活かせません。
マーケターから数字を引き出す言い方

数字が共有されない状況は、デザイナー側からの働きかけで動かせます。「配信してみた結果を共有してください」と依頼の段階で伝えておくのが最も摩擦が少ない方法です。
実務でそのまま使える形にすると、次のようになります。
「こういう仮説でこのバナーを作ったので、配信結果を共有してください」
「どのバナーが良かったかを判別して、次の案を作りたいです」
「配信期間が終わるのはいつですか。どういうターゲットに配信しましたか」
「結果を確認するミーティングを1ヶ月後に設定させてください」
ウェビナーでは、この4つを言えるデザイナーと継続して仕事をしたいという話がありました。数字を求めることは相手を問い詰める行為ではなく、次の提案の予約です。下請けで数字が見えない立場でも、「数字を見ないとバナーの改善ができないので、参考に見せてください」までは言って問題ありません。
伝えるタイミングによって、言い方は変わります。
タイミング | 伝えること | 言い方の例 |
|---|---|---|
見積もり・受注時 | 結果共有を前提に含める | 「配信結果の共有までをセットでお願いできますか」 |
納品時 | 仮説を残す | 「この案はこの狙いで作ったので、結果と照らして確認したいです」 |
配信開始時 | 配信条件を押さえる | 「配信期間とターゲット設定を教えてください」 |
配信終了後 | 数値を受け取る | 「表示回数・クリック数・クリック率を共有してください」 |
受注時に一度伝えておくと、配信後に催促する必要がなくなります。最初の1回だけ言いにくいだけで、2回目以降は業務の流れに組み込まれます。
数字の共有をためらう理由として「守秘義務があるのでは」という声もありますが、NDAや秘密保持契約を結んでいる関係であれば、成果数値の共有は通常の業務範囲に収まります。契約内容の確認だけ先に済ませておくと安心です。
意見が割れたら、どちらが正しいかではなく両方配信して決める
マーケターと意見が割れたとき、デザイナーが取るべき行動は妥協でも説得でもなく、両案を配信して検証する提案です。
たとえば「メッセージを多く入れたい」というマーケターと「その文字量は読まれない」というデザイナーが対立したとします。ここで結論を出そうとすると主観のぶつかり合いになりますが、文字数が多い案と少ない案の2本を配信すれば、1ヶ月後に答えが出ます。
状況 | 避けたい対応 | 推奨する対応 |
|---|---|---|
文字量で揉める | どちらかが折れる | 多い案と少ない案を両方配信 |
訴求軸で揉める | 声の大きい方に合わせる | 訴求違いの2案を配信 |
広告らしさで揉める | 感覚で議論する | 「広告っぽい」を言語化して両極端の2案を配信 |
目的地は同じで、アプローチの方法だけが分かれている状態だと捉えると、進め方が決まります。「作って終わり」の意識だとこの提案は出てきませんが、結果を見る前提で動いていれば自然に出てきます。
ECサイト以外・印刷物の成果はどう語るか
ECサイトは売上に直結するため成果が語りやすい一方、それ以外の案件では表示回数・クリック数・クリック率に配信金額を加えた4つで語るのが実務的です。事業会社の案件では、1つの商品に対して複数のバナーを制作していることが多いため、案ごとの数値比較が説得材料になります。
印刷物も計測できないわけではありません。
手段 | 取れる数字 | 依頼元に確認すること |
|---|---|---|
QRコードを載せる | 読み取り数、遷移先の閲覧数 | 計測用のURLを分けているか |
来店データと突き合わせる | 配布期間中の来店数の変化 | 店舗側が来店数を記録しているか |
クーポン・型番を刷り分ける | 媒体ごとの利用数 | 刷り分けが運用上可能か |
ブランディング目的と割り切る | 直接の行動数では評価しない | 何をもって成功とするか |
見えただけで行動につながらなかった広告は、費用だけがかかる状態になります。ただし仮説を持って配信していれば、結果が悪くても「この訴求は響かなかった」という確認にはなります。計測できないのではなく、計測する設計を入れていないだけという案件は少なくありません。
提案時に出せる数字と、予算を握る相手の動かし方
新規案件で提案時に出せる数字とは、過去に自分が制作したバナーの実績値です。まだ配信していない案件の結果は誰にも分かりませんが、類似案件の過去実績があれば予測値の根拠になります。
提案の型はこうなります。
「これが私の考えるいいバナーです」と案を出す
「なぜなら、この媒体にはこういう特徴があり、今回はこの訴求が合うと考えたからです」と根拠を述べる
「過去に制作した同種のバナーではこの数値が出たので、今回も近い水準を見込んでいます」と実績を添える
「ただしこれはシミュレーションなので、配信結果を見て次につなげます」と限界も伝える
予算を握る相手を動かす場合は、必要な金額とその根拠をセットで伝えます。「この金額が必要で、これを下回ると検証できるだけのデータが集まりません」という論理まで示すと話が進みます。
限界と注意点
CTRの目安は商材とターゲティングの幅で変わるため、他社の数値は基準になりません。 記事内で触れた1.2%から1.4%という水準も、特定の条件下での実感値です。ターゲティングを広げれば表示回数は増えてCTRは下がり、狭めれば逆になります。自分の案件の過去実績を積むほうが、外部の平均値より役に立ちます。
数字が共有されない案件もあります。 契約形態や情報管理のルールによっては、成果数値の開示が難しい場合があります。この場合は数字を求め続けるより、自分の側で仮説を書き残しておき、次の案件で検証する形に切り替えるのが現実的です。
指標を追うことが目的化すると、判断を誤ります。 クリック率だけを上げるバナーは作れますが、それが売上や問い合わせにつながるとは限りません。自分が追っている数字が、事業のどの目標につながっているのかを確認してから改善に入る必要があります。
よくある質問
Q. マーケティングは範囲が広すぎます。何から学べばいいですか?
自分が作ったものの成果を確認するところから始めてください。バナーを作ったならその配信結果、サムネイルを作ったなら視聴率です。成果を確認し、改善案を提案し、その結果をまた見るサイクルが回せていれば、マーケティングができる状態と言えます。
Q. バナーのクリックからLPのCVまで、デザイナーはどこまで責任を持つべきですか?
自分の評価指標がどこに置かれているかで決まります。組織の中で何を達成すれば評価されるのか、自社事業なら何が伸びれば成功なのかを確認すると、責任範囲は自然に整理されます。化粧品の売上を上げるのが目標なら、最終的な購入数まで追ったほうが改善の判断ができます。
Q. ターゲットは狭いほうがいいのでしょうか?
検証のしやすさで言えば狭いほうが有利です。30代女性向けに開発された化粧品を全年齢に配信するより、30代女性に絞ったほうが反応が読みやすくなります。ただし表示回数は減るため、目的が認知拡大なのか購入なのかで最適な幅は変わります。依頼元に「なぜそのターゲットにしたのか」を確認するのが先です。
Q. 数字と自分の直感が食い違ったらどうすればいいですか?
食い違ったこと自体が検証結果なので、悪いことではありません。「この訴求ならユーザーが動くと考えたが動かなかった」という事実が手に入っています。次の案でどこを変えるかの材料になります。
Q. 相手が数字に興味を持っていない場合はどうしますか?
提案のプレゼンに数字の話を混ぜていくと、関心が生まれることがあります。目的、課題、打ち手、過去のデータ、検証結果という順で説明すると、感覚と論理の両方で話が通ります。数字が苦手な相手ほど、複雑な指標ではなく表示回数とクリック率の2つに絞って見せるほうが伝わります。
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